Japanese Ocular Inflammation Society
Vogt-小柳-原田病
はじめに
Vogt-小柳-原田病(以下、原田病)は、日本人のぶどう膜炎の原因で2番目に多い疾患です。この疾患は自分の体のメラニン色素細胞に対して、異常な免疫反応が生じることによって発症します。メラニン色素細胞は日本人を含む東洋人に多いため、欧米に比べて東アジア地域において発症頻度が高いことが知られています。
症状について
瞳の黒い部分(虹彩)は、眼の後ろの方までつながって眼を包んでいます(ぶどう膜)。ぶどう膜はメラニン色素細胞が非常に多い場所のため、原田病を発症するとこの部分に強い炎症が起きます(ぶどう膜炎)。炎症が起こると、網膜の下に水が溜まります。網膜は物見るときに大切な場所のため、眼のかすみや、視力の低下、歪んで見えるという症状がでます。両目に症状が出ることがほとんどですが、程度や発症時期に左右差が見られることもあります。
メラニン色素細胞は全身に存在するため、眼の他にも全身に症状が現れることが原田病の特徴です。脳を包んでいる髄膜に炎症が起こることにより(髄膜炎)、頭痛や倦怠感、頭皮の違和感がみられることがあります。また内耳の炎症により、めまい、耳鳴り、難聴がみられることがあります。これらの症状は眼の症状と同時、あるはその前に現れます。
また原田病が発症してしばらく経った後に、メラニン色素細胞が減少することにより皮膚の白斑や白髪、脱毛がみられることがあります。メラニン色素細胞が減少すると眼の中の色が赤っぽくみえます。これを夕焼け状眼底といい、原田病に特徴的な所見です。
検査・診断について
一般的な眼科検査に加えて、造影剤を使った眼底検査、またぶどう膜(脈絡膜)の炎症の程度を観察するため光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)を用いた検査を行います。また髄膜の炎症を評価するために髄液検査を行い細胞の数が増えていないかを確認します。また他の病気の除外、全身の病気のスクリーニングのため血液検査も行います。また原田病の発症はHLA(ヒト白血球抗原)の遺伝子型と強い関連があることが報告されており、原田病の患者さんの90%以上がHLA-DR4の遺伝子型を保持していることが知られていますが、あくまで参考所見になります。
原田病国際診断基準に基づき、眼・全身症状、眼所見、髄液検査などから総合的に判断されます。
治療について
原田病の治療の目標は、眼や全身の症状を回復させること、また炎症を再発させないことです。原田病は眼だけでなく、髄膜や耳、皮膚など全身に症状がでるため、全身の治療が必要になります。一般的には副腎皮質ステロイドを大量に全身投与する治療が行われます。ステロイドパルス療法、あるいはステロイド大量療法といわれるもので、ステロイドにより炎症を抑える治療です。ステロイドは原田病に対して治療の効果が高く、眼や全身の症状の改善が得られることが多いのですが、ステロイドを急に減らすと炎症が再度起こる場合があります。炎症を繰り返すと徐々に視力が低下し回復しにくくなるため、できるだけ再発を少なくすることが原田病の治療で大切です。そのため、ステロイドパルス療法あるいは大量療法後に、眼の症状が軽快していてもステロイドの量を少しずつ減らしながら継続する必要があります。ステロイドの減量中に再発が見られる場合や、ステロイドの副作用が問題になる場合は、免疫抑制薬という別の炎症を抑える薬を用いる場合があります。また最近では生物学的製剤という強い炎症抑制効果のある薬も原田病の適応になっています。途中で炎症の再発がない場合でも、半年程度はステロイドなどの全身治療が必要になることがほとんどです。また再発・遷延する場合には1年以上あるいは数年にわたって継続する場合もあります。同じ原田病の患者さんでも病気の程度や、治療への反応は異なりますので、眼の病状や体調を慎重に観察しながら、治療を行う必要があります。原田病は眼と全身に症状が出る疾患のため、全身の治療が必要です。また炎症の再発を抑えるために、長い期間治療が必要になります。症状が軽快していても薬を続けることはつらいですが、決して治療を中断しないことが大切です。